あるいはご存知かもしれない。
阿佐田哲也(あさだてつや)という名を。
あるいはご存知かもしれない。
色川武大(いろかわたけひろ)という名を。
純文学の作家にして、エッセイストでもあり、「雀聖」と称される麻雀打ちでもあった怪物。
戦後の復興期を博打の腕で凌いだというアウトローな生活は、その後の彼の人生哲学に大きな影響を及ぼした。
そうした自身の経験を基に執筆した大ヒット青春麻雀小説「麻雀放浪記」は、当時「ただの運に左右されるゲーム」と見なされていた麻雀を、己の知力・技術・精神力を総動員した、「国家総力戦」であるという認識を大衆にもたらしたと言っても過言ではない。
今回はその中でも、特に傑作の誉れ高い麻雀小説を紹介しよう。
麻雀放浪記購入
友人は、一番の名作だと言ってたなぁ
戦後という時代背景の中で
生存することが絶対的価値観としてそびえ立つJ.L.マッキーの「brute fact」(ナマナマしい現実)を感じさせる
早く続きが読みたい pic.twitter.com/Ljtlk9LC8p
— 清原継光 (@krpphilosophy) 2017年6月23日
『麻雀放浪記』
いわずと知れた傑作であり、青春編、風雲編、激闘編、番外編からなる。
特徴的な点として、文中に麻雀牌の活字が直接用いられていることが挙げられよう。
読者への配慮となると共に、当時の麻雀打ち達が用いたイカサマという名の各種技巧の貴重な資料としての役目も果たしているのだ。
戦後復興期を己の腕一本で駆け抜けた「坊や哲」、「ドサ健」といった強烈な個性を発揮する登場人物達の軌跡は、麻雀小説としても、さらにはピカレスクロマン小説としても超一流の面白さを発揮している。
また、この小説の魅力は、一人の男の人生哲学、それも極めて実践的かつ現実的な哲学観によって支えられており、ここが単なる娯楽小説に堕していない理由であろう。
一般に博打とは、どれだけ技術に優れていても、運に見放されれば勝てるものも勝てない。
しかしその運の風向きをも考慮することが、戦後の復興期を博打一本で生き抜く上では求められた。
時には最愛の人を、時には衣食住の全てを、時には己の体の一部を、そして時には命を。
「運が悪かった」では済まされず、一度の勝敗が運命を決定づける…
およそ現在では体感することの出来ぬ、「生き死に」の懸かった数々の名勝負。
勝利の栄光と敗者の絶望。
全てを決するのは、運すらも取り込んだ己の実力なのだ。
強烈にして激烈、熾烈にして苛烈な登場人物たちの生き様が、その道に熟達した一流の作者によって描かれるのだから、面白くないはずがない。
たとえ麻雀を知らなくとも、あふれる生へのエネルギーは、あなたを掴んで離さないこと請け合いだ。
是非一度、書店で手に取ってみて欲しい。
凄まじい読書体験が、いや、一つの壮絶な人生が、あなたを待っている。