寝台列車――それは寝ても覚めても非日常の世界。
一度は乗ってみたい「時忘れの旅路」。
“走る豪華ホテル”とも言われる新たな寝台列車、
「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」登場のニュースがあった昨今、
憧れの気持ちを思い出された方も多かったかもしれません。
ただ…6月17日運行開始のこの瑞風。
予約抽選会では最高倍率68倍、最安値の1泊2日・ロイヤルツインでも1人27万円!
そもそもゆっくり旅行できる時間もないし、夢は夢で終わるのか…と思われた方。
いいえ、夢への入り口はすぐそばにありますよ。
“本”の中なら。
寝台列車で繰り広げられる絶景も、ときめきも、ミステリーさえ思いのまま。
今回はそんな「寝台列車を舞台とした本」を集めてみました。
温かな部屋の中、日常を忘れ、“読書で旅立ち”してみませんか。
写真で体感する“列車時間”
最後のブルートレイン 星空列車~輝きの瞬間~ 持田昭俊著
時代の移り変わりや新幹線の導入と共に、徐々に姿を消しつつある寝台列車。
その一つである「寝台特急カシオペア」「急行はまなす」が廃止される際、
最後を記念して出版された写真集です。
寝台列車の魅力に極限までスポットを当てると共に、走る風景やそこに込められた人々の気持ちにまで迫れるような、美麗な写真の数々が楽しめます。
今は無き勇姿…となれば、駆け巡る感慨もひとしお。
付属のDVDには60分に及ぶ映像美までもがたっぷり。
2,678円と価格は少しお高めですが、その価値あるひと時を過ごさせてくれるでしょう。
■最後のブルートレイン 星空列車~輝きの瞬間~
著者:持田昭俊
ページ数:127ページ
出版社:宝島社
発売日:2016年3月
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元祖“トラベルミステリー”
寝台特急(ブルートレイン)殺人事件 西村京太郎著
寝台列車+ミステリーと言えばこれ、というほどのミリオンセラー。
寝台特急を取材する記者・青木は、東京駅16時45発、西鹿児島行き寝台特急「はやぶさ」1号車の個室寝台7号室に乗り込みます。
途中では気になる“薄茶色のコートを着た女性”に興味を持って話しかけるものの相手にされず。
食事後に寝台車に戻ろうとした際、カメラを忘れたことに気がついて引き返すと…。
見つけたカメラからは“薄茶色のコートを着た女性”を写したフィルムが抜き取られており、次に自室で目が覚めた時には、隣室の“薄茶色のコートを着た女性”や知り合いの男性が「別の人間に入れ替わっている」ことに気付きます。
男性に話を聞けば、現在青木が乗っている列車は東京駅18時ちょうど発、西鹿児島行きの寝台特急「富士」とのこと。
一体寝ている間に何が…?と、問いただすために車掌室の扉の前に立った青木は殴られて昏倒。
翌朝多摩川に浮かんだのは…“薄茶色のコートを着た女性”の溺死体。
時刻表を操ったトリックや、人気キャラクターとして愛される「十津川警部」の活躍が痛快な一作。
読んでいる内に時の流れを忘れること間違い無しです。
またこの作品は、著者が紡ぐ列車を舞台としたミステリー(トラベルミステリー)の第一作目にして金字塔。
他にも多数魅力的な“西村京太郎ワールド”が発売されていますので、知らなかった!という方は、これを足がかりにめくるめくミステリーの世界に足を踏み入れてみては?
■寝台特急(ブルートレイン)殺人事件
著者:西村京太郎
ページ数:405ページ
出版社:光文社
発売日:2009年9月8日
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寓話と現実がクロスする“不可思議特急”
寝台特急 黄色い矢 ヴィクトル・ペレーヴィン著
ロシア文学の巨匠であるペレーヴィンが「死んだ者だけが降りることのできる寝台特急」を舞台に繰り広げる異能作。
連続殺人事件におびえる娼婦と潜水艦乗組員のかけひき、
蘇らせた死者を連れたシャーマンの国外脱出、
麻薬を片手に警備につく革命軍兵士…。
生々しい人間模様を絡めた寓話は現実味を帯び、「生きている人はみな永遠にこの列車から降りられない」世界の中で、読者をも巻き込んで刮目のラストへと向かいます。
一人でじっくりと世界に入り込むにはお勧めの一冊です。
■寝台特急 黄色い矢
著者:ヴィクトル・ペレーヴィン
ページ数:283ページ
出版社:群像社
発売日:2010年12月
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絵本の世界を旅しよう
やこうれっしゃ 西村繁男著
絵本は子供が読むもの?
いえいえ、正しくは「大人も子供も楽しめるもの」。
中でも何とこちらは「字のない絵本」。
つまり絵の他には一切の文章がありません。
にも関わらず、季節や時間の移り変わり、列車に乗り合わせた人々のドラマまでが緻密に“描き”込まれた本作。
大きな箱を大事そうに抱えた男性は何のために、どこへ行くのか…。
小さな子らの間で交わされている会話はどんなものなのか…。
あの広げられた駅弁の中身が気になる…など。
読み込み、想像の翼を広げるうちに、あなたも「やこうれっしゃ」の一員になれるはず。
厳密には寝台列車ではありませんが、どこか懐かしさを感じさせる「皆で身を寄せ合って過ごす夜」は、きっとあなたに大切な温もりを思い出させてくれるでしょう。
■やこうれっしゃ
著者:西村繁男
ページ数:32ページ
出版社:福音館書店
発売日:1983年3月5日
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“異国の旅”の心細さを味わう
容疑者の夜行列車 多和田葉子著
一貫して「あなた」と呼ばれ続ける主人公に、登場人物たちが関わっていく形で進む異色の一冊です。
――駅の様子がちょっとおかしい。ホームに人が嫌に少ないのである。それに、駅員たちがそわそわとして、何か秘密でも隠しているようである。駅員をつかまえて、どうかしたんですか、と尋ねるのも妙であるから、黙って観察しているしかない。駅全体が化けの皮をかぶっているのに、あなたはそれを剥がすことができずにいる――(「パリへ」)
決して読者が「あなた」というわけではないものの、呼びかけられながら読み進めるうち、読み手は自分が主人公でも登場人物でもない、不思議な存在となった感覚に陥るはず。
そうなればもうこの列車の旅に引き込まれたも同じ。
13編の連作からなる「容疑者の夜行列車」は、日本人ダンサーの女性が列車で各地を回ります。
そのため一つ一つの章は「パリへ」「イルクーツクへ」「ウィーンへ」と、その時の目的地をタイトルとしており、主人公と読者はその都度その都度出逢う人物や出来ごとに翻弄されていきます。
雨が降り注ぐようにして綴られる、作者の独特な文体も魅力の一つ。
手にすれば読み手の「あなた」の新たな扉を開くきっかけとなるでしょう。
■容疑者の夜行列車
著者:多和田葉子
ページ数:163ページ
出版社:青土社
発売日:2002年6月
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いかがだったでしょうか?
非日常への入り口はいつだってそばにあります。
本好きな方も、普段読まないな…という方も、
これをきっかけに素敵な“読書の旅立ち”に出逢って頂けますように。